CALENDAR
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    
<< June 2020 >>
PROFILE
LINKS
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
amazon1
amazon2
amazon3
amazon4
ARCHIVES
MOBILE
qrcode
OTHERS

ARTRAY

アート鑑賞ナビゲーター藤田令伊のブログ形式のメディアです。
展覧会レビュー、アート鑑賞のヒント、アートニュースなどアートに関する
effectiveな情報を発信しています。アート以外についてもときどき書きます。
<< 三代豊国と歌川派 | main | VOCA展 2014 >>
引っかかり鑑賞法
鑑賞のヒント
アート鑑賞は「作品とじっくり向き合うことが大切です」と、よくいわれる。たしかにその通りだが、展覧会の実際を考えると、100点、200点といった展示作品のすべてと「じっくり向き合う」のは不可能である。なので、ただ単に「じっくり向き合うことが大切」といっているだけでは実効的なアドバイスにはならない。もっと現実的な工夫が必要になってくる。


あなたにも心当たりがあるのではないだろうか。勢い込んで展覧会を見始めても、見ていくにつれてだんだん疲れてしまい、最後はヘロヘロになってしまった、ということが。アート鑑賞は案外疲れるものだ。集中して見れば見るほど、あとで反動がどっと押し寄せる。ずっと立ちっぱなしなので腰も痛くなってくる。もし、最後のほうにお気に入りの作品があったら、そのときには精魂尽きているかもしれない。そんなことになったら、勿体ないことこのうえない。


展覧会によっては「順路」と書いてある場合もある。まじめな人ほど「順路」をきっちり守って見ようとするだろう。するとやはり、はじめはしっかり見ていても、次第に見方が粗くなる可能性が高い。よほどの体力と気力の持ち主でなければ、「じっくり向き合う」ことを終始貫徹するのは難しい。


そこで、私がおすすめしているのが「引っかかり鑑賞法」とでもいうものだ。といって、別に難しい見方でも何でもない。最初に展覧会の始めから終わりまでざっくりと一通り見て、そのとき何らかの「引っかかり」を覚えた作品を重点的に、改めてじっくり見るという見方である。つまり、「ざっくり」のあと「じっくり」と見るわけだ。もし、会場が広くて終わりまで一気に見ることができない場合は、ブロックごとに同じことを繰り返せばよい。


この方法であれば、最初に集中しすぎて、後半は疲れてちゃんと見ることができなくなった、といった事態は避けられる。必要以上に疲労することがなく、おのずとペース配分につながる。とくにお年を召した方におすすめの方法である。また、最初見たときにはピンとこなくても、二度目に見ていくうちに「引っかかり」を覚えた作品もじっくり見ればいいのはいうまでもない。


「引っかかり」を覚えた作品に集中せよなどというと、荒っぽくていい加減だと思われるかもしれない。だが、案外しっかりした根拠がある。私たちが何かに対して「引っかかり」を覚えるというのは、いわゆる直感で気になるものをピックアップしていることになる。私たちの直感がどのように機能しているかというと、自分でも気づかないうちに、自分にとって重要なものとそうでないものをちゃんと区別しているのだという。


現在の認知心理学はそのメカニズムの謎に斬り込んでいる。私たちが数あるうちから特定のものに反応するのは、何らかの取捨選択が行われているからである。その取捨選択は「注意」の機能によってなされているという。私たちはふだん何気なく「車に注意しなさいよ」とかいっているが、人間の情報処理システムのなかで、情報を選択し、情報のある面へ集中する機能のことを認知心理学では「注意」と呼んでいる。私たちは「注意」の機能で、あるものにだけ選択的に「引っかかり」を覚えるということをしている。


注意は私たちのものごとを捉える枠組みに基づいて機能している。その人の性格や記憶、人生体験、ものの考え方等々によって形成される枠組みが、注意を何に対して選択的に向けるのかを決定すると考えられている。しかも、その注意の選択性は、意識的な領域だけにとどまらず無意識的な領域においても発揮され(これを閾下知覚という)、さらには瞬間的といってもいいくらいごく短い時間のうちにも発揮されることがわかっている。


これはおそらく人類の進化の歴史と関係があるのだろうと私は思っているが、したがって私たちが覚える「引っかかり」は、知らず知らずのうちにも私たちの主観を的確に反映し、見るべきものを選択的に拾い上げていると考えられる。何となく引っかかっているようでいて、じつはそれなりの理由がちゃんとあるのである。


ということで、私たちは安心して自分の「引っかかり」を信じてよいのである。「ざっくり」のあと「じっくり」という作戦は、思った以上に有効で合理的なのだ。私自身、たいていの場合実践している。ぜひ一度、お試しになってみてはどうだろうか。


(参考文献)道又爾ほか『認知心理学』(有斐閣)