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ARTRAY

アート鑑賞ナビゲーター藤田令伊のブログ形式のメディアです。
展覧会レビュー、アート鑑賞のヒント、アートニュースなどアートに関する
effectiveな情報を発信しています。アート以外についてもときどき書きます。
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中之条ビエンナーレ 2019
私的展覧会レビュー

群馬県中之条町で開かれている中之条ビエンナーレに行ってきました。2年に1度開かれるこのアートの祭典、今回で7回目になりますから、けっこう歴史を重ねています。でも、まだまだ知らないという人も少なくないかもしれません。

 

中之条駅前のインフォメーションセンター。吾妻通運の旧社屋が再利用されています。ピンクの幕や幟がビエンナーレの目印です

 

 

中之条ビエンナーレのようなアート・プロジェクトは、近年、大変盛んです。ある調査では大小合わせると全国で年間100以上開かれているともいわれ、毎日どこかで何かが行われている計算になります。中之条ビエンナーレは、そうしたなかでどのようなアイデンティティを育んでいるのでしょうか。

 

 

ビエンナーレの会場は、中之条町の6つのエリアに分かれています。中之条伊勢町エリアは、中之条駅近くの市街地で中之条町の中核となっている地域です。歩いて回ることができます。市街地なのでさまざまな店舗があり、閉店したお店を活用した作品が点在しています。

 

 

蓮輪康人の《トラヤ コレクション 〜わたし流を愉しむ〜》は、一昨年に惜しまれつつ閉店したブティック「トラヤ」跡を利用した作品。店内に舞台が設えてあり、奥のスクリーンに映像が流れています。映像は、この場所で開かれたファッションショーを伝えます。オリジナルの“トラヤ・ソング”に合わせて、次々とモデルが舞台を歩いてきては、ファッションを披露していく様子が映し出されます。店内にはモデルが着用していた服と似顔絵が展示されています。しかし、モデルはどうも素人のようです。

 

 

 

それもそのはず、ファッションショーのモデルは↓のポスターにあるように一般から募集されていました。

 

 

つまり、モデルになった人々はそれぞれ何らかのかたちでトラヤさんと関わった人たちなのでした。やはり年配の女性が多く、おそらくは若い頃からトラヤで洋服を買い、おしゃれをしていたのでしょう。トラヤで買った服を着てデートをしたり、トラヤの服で友達と東京へ遊びに行ったりしたのかもしれません。このようなショーに出演するぐらいですから、それなりにトラヤへの想いがあることと思われます。

 

 

一人ひとりにトラヤと歩んだ青春の記憶があり、取り戻せない、けれども消えない思い出がある……映像のなかで颯爽と「わたし流」を披露する女性たちを見ているうちに、切ないものも覚えました。これもまた地域の文化とまでいってはいいすぎでしょうか。小さなプロジェクトにすぎないかもしれませんが、強く印象に残りました。

 

 

伊勢町エリア以外へは車が便利です。越後妻有ほどではありませんが、中之条町といってもけっこう広く、路線バスや無料シャトルバスもあるのですが、移動の足としてはやはり車という選択肢になるかと思います。

 

 

伊参(いさま)エリアにはシンボルたる巨大な岩峰「霊山嵩山(たけやま)」が里山の頂に屹立しています。その岩峰を活用したスケールの大きい作品が半谷(はんがい)学の《風の龍:第二形態》です。

 

半谷学《風の龍:第二形態》

 

岩峰から長大なケーブルを引き渡し、そこに金属製のハンガーのようなものをズラッと並べてくっつけています。ちょうど連凧のような具合です。ハンガーのようなものは風を受けて回るようになっています。つまり、風が吹くと風が目に見えるのです。そして、岩峰のほうへと昇っていくさまは、たしかに昇龍を思わせます。自然を表現の一部にした壮大な作品です。

 

 

同じく伊参エリアの旧五反田学校は、折り目正しい印象の校舎が特徴で、町の重要文化財になっています。明治42年に建てられ、昭和44年まで使われたそうです。現在は地域の人々の憩いの場になっているとガイドブックに書かれています。わりと最近、改修されたように見えます。

 

旧五反田学校

 

学校のなかに作品が展示されていますが、外にもあります。元木孝美の《牧場》は、芝生の一角を区切り、小さな動物のオブジェを配置して牧場に見立てた作品です。

 

元木孝美《牧場》

 

こうしてみると、面白いもので、芝生がサバンナのように見えてきます(作品名は「牧場」ですが)。肉食獣が草食獣を狙っているように見えるシーンもあります。

 

 

ところが、近づいて“動物”たちをよく見ると、不思議なことが。

 

 

 

“動物”たちの造形はかなり抽象的で、それだけを見たら、何だかよくわからないものなのです。しかし、周りの情景のなかで見れば、やはり草食獣が肉食獣に狙われている場面に見えます。私たちの認識はいったいどのようにして生まれてきているのだろうかと考えさせられます。

 

 

六合(くに)エリアは、2010年に旧六合村が合併して中之条町となったところです。赤岩地区は、かつて養蚕業で栄えた地で、重要伝統的建造物群保存地区に登録されています。

 

 

湯本家は、幕末の蘭学者・高野長英が蛮社の獄の際に匿われた家です。

 

湯本家

 

土づくりの歴史をたたえた家です。入ったところに、木村吉邦の《赤岩湯本家忍者屋敷》という作品が。

 

木村吉邦《赤岩湯本家忍者屋敷》

 

障子の桟のようなものが複雑に組み合わされた作品です。一見、取りつく島がないのですが、桟のなかには手で引くと動くものがあり、引けば細い通路が開けます。鑑賞者は、迷路にようになった通路を、あっちの桟を動かしたり、こっちの桟を引いたり試行錯誤しながら通り抜けなければなりません。途中でにっちもさっちも行かなくなったらどうしよう、というプチ・スリル感もあってなかなか楽しい作品です。

 

 

それだけではありません。桟を動かすと、ほかの部分に影響するのです。こちらで通路に入ろうと桟を引くと、向こうのほうで通路が塞がり、向こうにいる人が通れなくなったりするのです。こちらと向こうは桟によって関係性が存在していて、互いに影響を及ぼします。迷路を面白がって進むうちに、おのずと自分と他者との関係に気づかされる仕組みになっているわけです。なかなか巧みなつくりです。

 

 

 

ほかにも、さまざまな作品を楽しむことができましたが、さて、では、この中之条ビエンナーレにどんな特徴を見出すことができるでしょうか。私がもっとも強く感じた(る)のは、観客の年齢層が高いということです。

 

 

中之条ビエンナーレのようなアート・プロジェクトは、冒頭記したように、近年あちこちで開かれるようになっています。その様子は、雨後の筍といっても過言ではないくらいです。加えて、同じディレクターが複数のプロジェクトを担当したり、同じアーティストがあっちにもこっちにも出品したりすることがあり、“似た者同士”になっている事例も見受けられます。

 

 

複数のプロジェクトに招聘されるのは、人気が高い人たち、有名な人たちです。また、作品の多くがいわゆる現代アートであることもあって、お客さんは若い人たちが多いというのが一般的な傾向です。その結果、アート・プロジェクトは若者たちの祭典という性格が色濃くなっています。

 

 

ところが、中之条の場合、そうではないのです。見ていると、リタイアしたあとのご夫婦といった風情のカップルが大変多い。また、車のナンバーは地元の群馬をはじめ、栃木や埼玉といった近県ナンバーが多いのです。話題に乗り遅れないよう何かに急き立てられるみたいにやってきた、といった風ではなく、気が向いたので自分ペースで出かけてきた、という感じなのです。そのため、他のアート・プロジェクトとは全体の雰囲気がちょっと違っているように感じられます。

 

 

アート鑑賞とは、本来、自分の愉しみとしてあるべきものであろうと思います。が、話題になっているから、とか、見てないとはいえないから、といった他律的な理由のケースが案外少なくないような気がします。中之条ビエンナーレは、有名なアーティストが名をズラッと連ねているわけでもなければ、若者たちが怒涛のように押し寄せているということもありません。多少地味かもしれませんが、地に足の着いた感覚で等身大でアートを自分のペース、自分の好みで楽しみ味わうことができる祭典になっていると思います。観客の年齢層の高さは、そのことを象徴しているかと。

 

 

会期の残りが短くなってきましたが(〜23日)、気が向いたら自分のペースでお出かけになってはどうでしょうか。