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ARTRAY

アート鑑賞ナビゲーター藤田令伊のブログ形式のメディアです。
展覧会レビュー、アート鑑賞のヒント、アートニュースなどアートに関する
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ケルン大聖堂 リヒターのステンドグラス
ブログ

年が改まったので昨年のことになりますが、夏にドイツへ行っておりました。昨年はカッセルで5年に1度開かれる「ドクメンタ」という国際芸術祭と、ミュンスターで10年に1度開かれる「ミュンスター彫刻プロジェクト」の開催が重なるというレアな巡り合わせだったので、思い切って訪れたのでした。ついでに、少し見て歩いたほかの街の一つにケルンがあります。ケルンにはケーテ・コルヴィッツの美術館があり、機会があればまたご紹介したいのですが、今日はとりあえずケルンといえば大聖堂についてお話ししてみたいと思います。

 

 

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ケルン大聖堂

 

 

こちらがケルン大聖堂です。ケルン中央駅の駅前にあり、巨大な2つの尖塔が天を衝いてそびえています。高さ157メートルだそうで京都タワーよりちょっと高いですね。尖塔と尖塔のあいだが入り口で、なかに入ると広大な空間が訪れた者を圧倒します。

 

 

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大聖堂内部

 

 

天井がはるか上にあるゴシック建築のお手本のような建物です。天井というより「天上」という感じです。ゴシックの教会は神様のおわします天上界を憧れて、上へ上へとという方向性を強調してつくられたのです。ちなみに内部の高さは43.5メートルとのこと。50メートルプールを少し短くして立てたぐらいになりますが、高さを印象づけるために垂線を強調してあるため、感覚的にはもっと高く感じます。

 

 

教会といえばステンドグラス。ケルン大聖堂にもいくつものステンドグラスがあります。こんなふうです(↓)。スケールの大きさはこれまで見たステンドグラスのなかでも際立っており、圧巻というほかありません。

 

 

DSCN5662.jpg      DSCN5661.jpg

 

 

教会のステンドグラスは、聖書の物語が題材になっていることがほとんどですね。

 

 

DSCN5663.jpg

 

 

これは上のステンドグラスのアップ。イエスの誕生の場面ですね。星に導かれて三人の博士(賢者)たちが救世主の生誕を祝いに訪れた様子が描写されています。教会のステンドグラスの定番で、ヨーロッパをはじめ世界中で見ることができます。大変美しいステンドグラスです。ちなみに、イエスの誕生日はクリスマスということで、イエスは12月25日生まれということになっていますが、じつはそれには根拠はありません。聖書にはイエスが何月何日に生まれたとはひと言も書かれていません。もともと人々のあいだで祝われていた冬至のお祭りと合わせてクリスマスにしてしまったというのが実際のようです。ちなみに、イエスの露払いともいうべき洗礼者ヨハネの誕生日は6月24日で、そちらは夏至ということになります。

 

 

話をケルン大聖堂のステンドグラスに戻しましょう。そんなふうに教会のステンドグラスといえば聖書物語であるのが当たり前ですが、ケルン大聖堂には驚くべきステンドグラスがあります。↓がそれです。

 

 

DSCN5667.jpg

 

 

上の写真ではわかりにくいかもしれませんのでアップにしてみます。

 

 

DSCN5667-2.jpg

 

 

もっと寄ってみます。

 

 

DSCN5667-3.jpg

 

 

 

いかがですか? まるでカラーモザイクです。さまざまな色の正方形が窓全面をびっしりと覆っており、一般的なステンドグラスとはまったく異なります。イエスもいなければマリアもいません。いや、そもそも人間や動物、植物さえも描かれていないのです。驚くべきステンドグラスです。物語が何もなく、ただ無機質無意味な正方形が並んでいるだけという掟破りぶり。あるはずの物語性は、正方形という記号に置き換えられることによって、意図的に意味が剥奪されています。

 

 

写真では実物のインパクトが伝わらないと思いますが、ご覧になってどんなふうにお感じになるでしょうか? 「ふつうのステンドグラスとは全然違うので違和感がある」という人もいらっしゃれば、「へー、こういうのもオシャレでいいじゃない」と肯定的に受け止める人もおられることと思います。「なんじゃこれは!?」と呆れた人もいるかもしれません。あなたは肯定派、否定派、どちらでしょうか。

 

 

このステンドグラスは2007年に完成しました。作者は、なんと、あのゲルハルト・リヒター。ドイツを代表する現代アートの巨匠です。13世紀来の歴史的建造物に現代アートのアーティストの作品がはめ込まれているという大胆不敵な組み合わせ。まるで、東大寺の大仏様に山本耀司のファッションを着せているみたいなものです。発想がスゴイではありませんか。ケルン大聖堂たっての依頼で実現しました。

 

 

当初、リヒターに依頼されたのは6人の聖人をモチーフにした作品でした。ところが、リヒターは悩みに悩み、もうほとんどこの仕事は無理だと諦めかけたときに思いついたのがこの表現でした。このリヒターのステンドグラスは物語がないだけではなく、全体が9.6センチ四方の無数の正方形の色ガラスで均質になっていて、中心もなければ周縁もありません。始まりもなければ終わりもありません。主役もなければ脇役もありません。そこにリヒターの思想が込められています。いまや21世紀。かつてのように支配する者、される者という区分けはない時代なのだと謳っているわけです。

 

 

そんな作品を、よりによって権威の権化のような大聖堂に持ち込むとは、リヒターもやることが憎らしい。見方によったら痛烈な皮肉です。でも、それを受け入れて、訪れたすべての人に披露している大聖堂側も大したものです。そのあたりの事情を思い浮かべながら見ると、なおさら清々しい思いがしてきます。

 

 

このリヒターのステンドグラスは、いまやケルンの新しいシンボルとなりつつあるそうです。日本ではまだ紹介される機会があまりないのでほとんど知られていないようですが、ドイツを訪問するチャンスがあれば、ぜひ一度見に行ってみてください。