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ARTRAY

アート鑑賞ナビゲーター藤田令伊のブログ形式のメディアです。
展覧会レビュー、アート鑑賞のヒント、アートニュースなどアートに関する
effectiveな情報を発信しています。アート以外についてもときどき書きます。
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Rituals −流体の景色−
私的展覧会レビュー

2016.8.6ー9.24:アキバタマビ21

 

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気になっていたのになかなか行けず、最終日に何とか滑り込みで見に行った。5人のアーティストの作品から構成されていたが、なかでもスザンヌ・ムーニーの作品にとくに惹きつけられた。

 

 

シリーズの写真作品で、各地で風景のなかに自分を入れ込んで撮影している。多くは後ろ姿で、横向きもある。だが、顔がはっきりとわかるものはない。お寺のような場所もあれば、吹雪いている雪原のようなシーンもある。そうかと思えば、ゴンドラかロープウェイの駅の突端に立っているものもあれば、階段の金属製の手すりにまるで串刺しにされたかのようなものもある。自然絡みの場面が多いが、必ずしも場所の一貫性はない。作品タイトルは《The dancer from dance》。

 

 

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いったい、これらの写真は何を物語っているのだろうか。ちょっとアントニー・ゴームリーを想起させるものがあるが、何とも不思議な印象である。

 

 

作品について、展覧会フライヤーに次のような文章がある。

 

「この写真シリーズは2006年から今までも制作中。10年間、他のアートプロジェクトと共に、どんな国へ行っても、風家の中に自画像を撮る。最初にフリードリヒをインスパイヤーされているが、概念的にロマン主義と違う。女としてとって、風景を外から見る体験の代わりに、各イメージによって、身体と自然が不明瞭または不可分にした。自然と人工の分ける所を考えながら制作して行く。タイトルはイェーツの「Among School Children」から引用している」(フライヤーより)

 

日本語がややおかしいのは、おそらく作者自身が書いているからだろう(そのおかしさがまた興味深い)。最初はフリードリヒにインスパイアされたというのは、なるほどと思わせるものがある。正確を欠く日本語のせいもあって、よくわからないところもあるが、どうやら自然と人工、人間と自然の関係性を問うているらしい。

 

 

作者のスザンヌ・ムーニーは、1979年、ダブリン生まれというからアイルランド人である。アイルランドの美大を出たのち、多摩美術大学大学院で博士課程を修了している。

 

 

作品に込められている思索がどの程度深いのかは不明である。が、見る者が勝手に受け取ったり読み取ったりするのは自由である。作中の作者は、作品を見ているわれわれと近い視線で風景を見ているようだ。彼女の見ている様子はきわめて静穏で、決して風景に感嘆したり驚嘆したりはしていない。冷静な観察者のようなニュアンスを漂わせてひたすらに風景を見ている。だが他方、ただ観察しているだけかといえば、そうでもない。観察しながらも彼女自身が風景の一部分と化し溶け込みつつあるようにも感じられる。誰も止めなければ、彼女はそのまま永遠にその場に立ち、風景を眺め続けてしまいそうだ。もし長大な時間が流れると、彼女もまた風景とともに朽ちてしまいそうだ(そのように感じられる場所を選定して作者はシャッターを切っているのかもしれない)。そんな一種の永遠性を作品は湛えている。つまり、「時間」の概念が組み込まれた作品に私には見える。

 

 

ここで紹介した4点のなかでは階段の写真が異色である。他は自然の風景がモチーフとなっているのに対して、この写真だけは階段という人工物しか写っていない。その人工物のなかで作者は金属製の手すりという人工物によって串刺しになっている。ビジュアル的にインパクトのある図だが、それだけではなく、人工物と人間との関係性が提起されてもいて、懐深い作品性を孕んでいる。イメージを逞しくすれば、ここでも時間の経過によって、階段も手すりも彼女もやがて朽ち果てていく道行きが浮かび上がってくる。

 

 

自然と人間もしくは人工、そして時間といった変数を巧みに組み上げ、ビジュアル的にも鑑賞者に強く訴求するすぐれた作品だと思った。ギャラリーで出合う作品のなかでは久々のスマッシュヒットという快感を覚えた。

 

 

※展覧会レビューについて
展覧会レビューは、筆者の価値観と感性で記しているものです。したがって、「正解」とか「模範解答」を狙ったものではありません。お読みくださる方には「世の中にはこういう見方もあるのか」ぐらいに、あくまでも参考としてご覧いただければと思います。筆者の見方に固定されず、ぜひおのおのの見方をすすめられることを願っています。