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ARTRAY

アート鑑賞ナビゲーター藤田令伊のブログ形式のメディアです。
展覧会レビュー、アート鑑賞のヒント、アートニュースなどアートに関する
effectiveな情報を発信しています。アート以外についてもときどき書きます。
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ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989
私的展覧会レビュー
2015.6.24〜8.31:国立新美術館
2015.9.19〜11.23:兵庫県立美術館

P1030090.jpg

近年世界に大きな影響を与えている日本の文化として、マンガやアニメが取り沙汰されているのはご承知の通りでしょう。この展覧会は、そうした状況を踏まえ、1989年以来のわが国のマンガ、アニメ、ゲームのなかからメルクマール(指標、一里塚)となっているものを一堂に集めて改めて紹介しようという企画です。なぜ1989年以来なのかというと、この年にあの手塚治虫が亡くなったからだそうです。また、任天堂のゲームボーイが発売された年でもあったとのことで、本展は1989年を一つの画期と捉えています。


内容は展覧会名通り、マンガ、アニメ、ゲームの3ジャンルを素材として、8つの章で構成されています。各章のタイトルを列挙しておきます。

第一章 現代のヒーロー&ヒロイン
第二章 テクノロジーが描く「リアリティー」――作品世界と視覚表現
第三章 ネット社会が生み出したもの
第四章 出会う、集まる――「場」としてのゲーム
第五章 キャラクターが生きる=「世界」
第六章 交差する「日常」と「非日常」
第七章 現実とのリンク
第八章 作り手の「手業」

これらのサブテーマにそって約150の作品がマンガ、アニメ、ゲーム取り混ぜて展示展開されます。


P1030093.jpg
会場の様子(Aとあるのはアニメを意味します)


具体的にどのような作品が取り上げられているかですが、私は近年のマンガやアニメ、ましてゲームにはあまり詳しくないのでよくわからないのですが、私でも知っているようなものでは、

<マンガ>
「寄生獣」「蒼天航路」「バガボンド」「ナニワ金融道」「鋼の錬金術師」「キングダム」「進撃の巨人」「七つの大罪」「ONE PIECE」「GANTZ」など
<アニメ>
「NARUTOーナルトー」「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」「新世紀エヴァンゲリオン」「メトロポリス」「イノセンス」「美少女戦士セーラームーン」「涼宮ハルキの憂鬱」「APPLESEED」「魔法少女まどか☆マギカ」「機動警察パトレイバー 劇場版」など
<ゲーム>
「ストリートファイター供廖屬廚茲廚茵廖屮櫂吋奪肇皀鵐好拭次\屐ξ弌廖屮戰好閥デ蓮Ε澄璽咫璽好織螢ン」「戦国BASARA」「スーパーマリオ64」「ファイナルファンタジー察廖崚甜屬GO!」「Dance Dance Revolution」「太鼓の達人」「ドラゴンクエスト検‘海れし者たち」「おいでよ どうぶつの森」など

がありました。これらが上記章立てによって分類され、展覧に供されていました。


で、ここからは私の印象あるいは感想になりますが、展覧会を見てどうだったかというと、これがあまり面白く感じられませんでした。個々の作品としては私も面白く思っていて高く評価しているものがあるにもかかわらず、です。その理由は明白で、ズラッと作品がカタログのように並べられても、一つひとつの作品世界に没入することは到底できず、作品のほんとうの魅力に触れることはほとんど不可能だからです。やはりマンガはマンガとして、アニメはアニメとして見るに如くはないということです。


これは本展に限らず文化庁メディア芸術祭などでも同様に感じることで、マンガやアニメの展覧会は内容をどう組み上げるかが大変難しいことを示唆していると思います。本展のようにさまざまな作品をひとまとめにしようとすると、どうしても各作品はせいぜいどこかの場面を断片的に紹介する程度しかできません。また、見る側にとってもおびただしい数の作品を一つずつ丁寧に見ていくことは事実上ムリです。つまり、展覧会の構成も見る側の見方も、どちらも総花的にならざるをえず、それがこの種の展覧会の難しさとなっていると思います。


見応えということでは、かろうじてアニメの原画などに完成作品ではわからないクオリティや手間隙を見出すことができ、感嘆を覚えることができたぐらいでしょうか。


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会場の様子。右側の壁にズラッと掲示されているのは「マクロスプラス」の原画。
宇宙空間でのほんの一瞬の戦闘シーンにも膨大な原画が描かれていることがわかる


本展では別のことも感じました。それは、この展覧会が国立のミュージアムで開かれているということに起因します(関西展では県立のミュージアムになりますが)。国の美術館がこうした企画を実施するというのは何なのかということです。ごく単純には世界でも高く評価されつつある新しい日本の文化としてのマンガやアニメを顕彰しようということが考えられますが、そういう受け取りだけでいいのでしょうか。あるいは、本展図録は日本語版のほかにも英語版がつくられていることや日本でのあとアジア、ヨーロッパ、アメリカへも巡回する予定になっていることからわかるように、ますますマンガやアニメを外国へ売り込もうという“マーケティング”の一環なのでしょうか。


そういった性格もあるでしょうが、私にはマンガやアニメといったものに対する国の媚びあるいはへつらいのようなものが感じられました。個々の学芸員や関係者はそういうわけではないと思いますが、このような企画が文化庁の補助金(税金)を投入してまでなされるというのは、成熟しきってしまい、へたをすれば今後衰退しかないという局面に立たされている日本の現状と切り離しては考えられないでしょう。つまり、アベノミクスでいえば三本目の矢がなかなか具体的に見出されず、ネクストステージがなかなか切り拓かれないなか、マンガやアニメ、ゲームは国にとってはキラ星の如く映っているに違いなく、その勢いに乗っかろうとしている図式が透けて見えてくるのです。


かつては違いました。むしろ国のほうが主体となって成長の青写真を描き、鉄鋼や自動車、電機といった産業を育成し国の成長を実現させました。そこには確かな見通しがありました。しかし、いまや国には日本の道行きの青写真を描く力はなく、本音ではどうしたらいいのかわからないというのが実際だろうと思います。苦し紛れにすがるようにしてマンガやアニメ、ゲームに食らいついたというのが実情ではないでしょうか。本展の挨拶で青木保国立新美術館館長(元文化庁長官)は「日本の文化発信、文化振興、またコンテンツ産業、観光、国際文化交流、さらには文化外交などの推進に積極的に寄与するものとなることを願うものです」と麗々しい文章を記しています。言葉は美しいですが、ここにはいま指摘した本音がしっかり現れているように思います。


マンガやアニメ、ゲームは日本の新しい文化の担い手であるのは間違いありませんが、これらは問題点も指摘されています。とくにゲームは強い習慣性によっていわゆる「ゲーム脳」になってしまう恐れが生理学的に明らかになってきています。前頭前野におけるニューロンの発達にネガティブな影響が生じたり、脳内麻薬様物質が異常分泌されたりすることが報告されています。あるいは、そういう生理的なことだけではなく、単純な話、ゲームばかりしていたら人間発達的な面で差し障りが出るであろうことは容易に想像されるところです。国がやるのであれば、そうした負の側面への言及があってもおかしくないはずですが、本展ではそのような視点は皆無だったといわなければなりません。


さらに、文化と権力の接合という点においても気になるものがあります。国家という権力に文化が安易に接近するのはどうかということです。文化は力があるようでないようで、また、力があるとしてもどのような力にもなりうるということがあります。かつて多くの戦争画が描かれ、戦後それらはほとんど封印され、私たちは見ることができなくなったことを忘れてはいけないでしょう。国自身が気づかないうちにも文化が乱用される恐れは常にあると考えておく必要があるのだと思います。


★★☆


※展覧会レビューについて
展覧会レビューは、筆者である私、藤田令伊の価値観と感性で記しているものです。したがって、「正解」とか「模範解答」を狙ったものではありません。お読みくださる方には「世の中にはこういう見方もあるのか」ぐらいに、あくまでも参考としてご覧いただければと思います。また、筆者の見方に固定されず、おのおのの見方を展開されることを願っています。