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ARTRAY

アート鑑賞ナビゲーター藤田令伊のブログ形式のメディアです。
展覧会レビュー、アート鑑賞のヒント、アートニュースなどアートに関する
effectiveな情報を発信しています。アート以外についてもときどき書きます。
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「アート鑑賞」授業への挑戦
ブログ
今年に入ってから当サイトの更新が少なくなっており、アクセスしてくださった方々には大変申し訳なく思っております。このところ、なかなかこっちに手が回らずで……。

さて、今日は大学の授業の近況報告です。今年度は新しいカリキュラムに挑戦しています。1月に出版した『アート鑑賞、超入門!』(集英社新書)の内容をベースに、アート鑑賞に特化した授業を展開しつつあります。アート鑑賞、つまり「アートを見ること」そのものに正面から取り組んだ授業は、おそらく日本では実質的に過去ほとんど例がないと思います(もしかしたら世界でも?)。


過去に例がないなどというと、「そんなことはない。美術鑑賞論という授業がうちの大学にあった!」といった声が挙がるかもしれません。たしかに、「美術鑑賞論」とか「芸術鑑賞論」という名の授業自体はこれまでもありました。ですが、多くは「美術鑑賞論」という授業名通りの内容にはなっていない嫌いが否定できません。


具体的にはどういうものかというと、まず、「美術をどう教えるかを学ぶ」内容になっているものが挙げられます。フランツ・チゼックやハーバート・リードといった先覚者の美術教育論を基盤にしているものと、アメリア・アレナスやフィリップ・ヤノウィンらのVTCやVTS、あるいはそれらをもとにした対話による美術鑑賞を基盤にしているものとに大別できるようです。いずれも美術教育を教育全般のなかで重要なものと位置づけ、学習者の自発的な学びを促す思想に貫かれています。依拠元になっている先行研究には多くのすぐれた点、学ぶべきところが今日なおあり、私も大いに参照させてもらっています。


しかし、反面、これらは「美術をどう教えるか」とか「どのように美術を見せるか」という内容になっているということがあります。つまり、「美術をどう見るか」という内容ではないのです。そのため、厳密にいえば「美術鑑賞論」というよりも「美術教育論」あるいは「美術鑑賞教育論」としたほうが中身に即しています。


二つ目は、美術史の知識を教えるタイプの授業です。ルネサンス美術やマニエリスム、バロック、ロココ、ロマン主義、新古典主義等々といった、時代とともに盛衰を見せたさまざまな様式の変遷や特徴、思想を教え、美術作品をより深く理解できるようにする内容となっています。もちろん、これはこれで意義のある学びで、たしかに作品や作家、様式や時代についての理解が深まります。とはいえ、やはりこれも「美術をどう見るか」そのものではありません。美術作品とどのように向き合っていけば、より意味のある鑑賞体験とすることができるのか、という問いかけには残念ながらほとんど何も答えてくれません。そもそも立脚している観点が違うからです。この種の授業は、内容からいえば「美術史概論」などとするほうが適しているように思います。


いま一つは、美術作品を論じることを教えるタイプの授業です。さまざまなすぐれた美術批評を教材に用いながら、どのように美術作品に斬り込み、批評的言説を組み立てていくかが教えられます。高度な洞察力や論述力が養われますが、これもまた「美術をどう鑑賞するか」というのとは少し違っているように思います。たしかに広い意味では「美術を見る」ことではあるのですが、一般に美術鑑賞というときには、批評したり分析したりするというより、楽しんだり、刺激を受けたり、感動したり、新しい価値観に気づいたりすることがその主たる中身になると考えられるからです。したがって、このタイプもほんとうは「美術批評論」とか「美術ジャーナリズム論」といった授業名がふさわしいと思います。


というように、改めて見渡すと、ほんとうの意味で「美術鑑賞論」と呼べる授業はほとんど存在していないのが実情だと思います。私が進めつつある授業は、まさにその穴を埋めようというものです。それだけに、当初は果たしてうまく進められるだろうかという不安がなきにしもあらずでしたが、案ずるより産むが易しの諺通り、学生たちの積極的な学習姿勢にも支えられて、いまでは軌道に乗りつつあると感じています。私自身、毎週の授業が楽しみになっています。


なにぶん前例のない授業なので、手探りというのが正直なところですが、学生たちが興味を抱きそうな作品を題材にして、漠然とした内容に終わらないよう気をつけ、ワークショップ形式やディスカッションを交えて進めています。「よく見る」ことと「私が見る(主体的に見る)」ことをアート鑑賞の二つの基本と位置づけ、そのうえで「感性的鑑賞」「知性的鑑賞」「鑑賞と知識」「鑑賞と思想」「鑑賞の視点」等々といったサブテーマを毎回設定し、アート鑑賞の学びを積み重ねています。


いま春学期15回の授業のおおよそ半分が過ぎましたが、受講してくれている学生たちの鑑賞力は当初に比べると相当向上している手応えがあります。また、鑑賞力だけではなく、コミュニケーション力や合理的思考力などにもよい効果が出ていると感じています。さらに、ある意味、大学生活でもっとも身につけるべきものかもしれませんが、積極性や主体性といった生き方そのものにかかわる部分にも好影響が現れているように見えます。アート鑑賞のポテンシャルの高さがうかがわれます。


すでに現時点で当初予定よりも授業の進展がずっと早く、かつ、高度なものになっています。いったい、どこまで行けるか、やりがいあるチャレンジです。私もせいぜい精進して後半に臨みたいと考えています。