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ARTRAY

アート鑑賞ナビゲーター藤田令伊のブログ形式のメディアです。
展覧会レビュー、アート鑑賞のヒント、アートニュースなどアートに関する
effectiveな情報を発信しています。アート以外についてもときどき書きます。
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東京五美術大学 連合卒業・修了制作展
私的展覧会レビュー
2015.2.19〜3.1:国立新美術館

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毎年この時期に新美で開催される東京の五つの美術系大学の卒業制作展、一度に五大学見られるありがたい企画です(しかも無料)。卒業制作展は、いわば美術家の卵たちの展覧会。今年はどんな人が出てきたかと、つい青田買いをするような眼で見てしまいます(実際、ギャラリー関係者とおぼしき人たちも大勢見にきています)。私的に気になった作品を紹介させてもらいます。


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川村陽平(武蔵野美術大学)《線》

大きな作品です。横3メートル、縦2メートルぐらいあったでしょうか。奔流となっている川のなかに堰か何かがあり、それを水が覆い越して流れているところでしょうか。それとも、船が航跡を残して進んでいるところでしょうか。水が激しく沸き立つ勇壮なさまです。日本画のある種の類型ではありますが、迫力ある描写力でインパクトを感じました。タイトルの《線》とは、船が海面に残した航跡をいっているのか、それとも別の何かでしょうか?



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多胡みすず(女子美術大学)《集団》

女子美の方の日本画作品です。女子美は毎年レベルが高いと感じます。手を抜くことなくきっちりと作品を仕上げている、つまり美術というものに真摯に向き合っている姿勢が作品を通して見えてくるのです。この多胡さんもそうした一人と思いました。おそらく写真をベースに制作された作品だと思いますが、表現が独特です。色彩は緑や茶のアースカラー系を主調にところどころ薄っすらと鮮やかなマゼンタ系がさされています。塗り方のストロークはほぼ縦横のみ。よくこんな塗り方で描けるものだと驚きを覚えますが、その縦横の筆跡が箔張りみたいに見える地を生んでいます。《集団》の人たちはほんの少し上下方向が圧縮されているみたいで、その結果、実際よりちょっとかわいく見える演出(つまり、いま風な演出)がなされているように見えました。


ポップすぎず、地味すぎずとでもいいますか、作品のあらゆる要素がカッティングエッジとコンサバの中庸を狙って周到に設計されているようです。アースカラー系だけでは地味になるところ、マゼンタ系を利かせることでポップさを加え、箔張りを思わせる地はいうまでもなく琳派を潜在的にイメージさせる一方、主題の群像を白抜きにすることによって現代性を出しています。また人々の立ち並びは光琳《燕子花図屏風》のカキツバタを連想させます。《燕子花図屏風》が秘かなテーマとされているのだったら、妙に横長な絵のフォルムも納得できます。


新しさと古さという時間軸の対極にあるものが混淆され、複雑絶妙な味わいに結実しています。非常によく練られた作品です。ただビジュアルだけではなく時間というテーマを含み、過去と現在そして未来はつながっていることを示唆しているとも解釈できそうです。作者がどうしてこういう表現を試みたか、いろいろ考えることができ案外奥深い作品だと思います。この作品は見れば見るほど手が込んでいて、画布のみならず額縁にまでエイジングが施されています。

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細かいところまで手の届いた拵えによって、レベルの高い作品になっていると思いました。もし、本展でグランプリを選ぶとしたら、私ならこれにするだろうと思いました。



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飯島 香(女子美術大学)《be dyed》

画像ではよくわからないかもしれませんが、ごく細かい等高線のような絵柄が絵具の厚塗りで表現された大変緻密な作品です。青、緑、黄のアンサンブルが軽やかな色彩世界を生み出してもいます。よく見れば、色彩のなかにカメレオンがいます。若者らしい、ちょっと面白いアクセントになっていますね。

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阿部未奈子など既存作家に既視感がなくはないですが(制作方法は異なると思いますが)、これだけの作品をつくり上げた力と情熱は見上げたものだと思いました。途方もない時間がかかったのではないでしょうか。



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中村花絵(女子美術大学)《平凡な日常の断片機

シルクスクリーンの作品です。全体が細かい矩形のグリッドに切り分けられ、それぞれのグリッドが着色されて絵柄が描かれています。グリッドは矩形でシャープなのに、浮かび上がった図はボンヤリしているという相反する性格が一つの表現に収束されています。面白いですね。こういう表現はセンスがよくなければできない気がします。




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加藤千晶(女子美術大学)《「いってらっしゃい」と「おかえり」の間のドラマ》

三つの作品に一つのタイトルが表示してあったので組作品かもしれません。これが何かわかるでしょうか? じつは、アクリル毛糸で編まれたタペストリーです。飛行機やバス、街並みの写真を毛糸の編み物にしているのです。いわゆる絵画的な図ではなく、ストリートフォトをモチーフにしたら、思いのほか斬新な印象になるのですね。大変独創的です。こんなタペストリーだったら、お店に飾ってもいい感じです。私は飛行機のものがほしいと思いました(笑)。



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田神光季(東京造形大学)《birds-eye view TOKYO》

東京都心の俯瞰写真を題材に独自の表現に仕上げた油彩作品です。全体が4枚の絵から構成されています。グレー基調の色彩が新鮮な感覚を覚えさせます。また、造形的にも作者のオリジナリティを感じさせます。全体図ではよくわからないと思いますので、1枚を拡大してみましょう。

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このようにフリーハンドの迷路のような図が細かく描かれています。作者はどこからこのような表現をひねり出したのでしょうか?



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菊池美樹(東京造形大学)《魂のいちばんおいしいところ》

油彩作品です。山岳風景をもとにしたようで、山の頂より下に広がる雲海が淡く虹色に彩られています。幻想的な光景が描写されていますが、飛行機やパラグライダーも入っていることによって不思議な現実感が加味されています。私はこの絵を見て、思わず「ニライカナイだ」と思ってしまいました。


《魂のいちばんおいしいところ》とは、どういう意味なのでしょうか? やはり天国的ということでしょうか? あるいは、作者自身がこのような景観を目の当たりにして心が存分に満たされた経験があるのでしょうか? すでに作者独自の画風が確立されていて、力量のほどがうかがえます。将来、どんな作品を生み出してくれるだろうかと期待を覚えます。



このように大変すぐれた(と私には思える)作品が見られ興味深いものがありました。が、同時に気になることもありました。今年に限らず、本展に限らずですが、既存の人気作家の二番煎じのような作品が少なからず見受けられたことです。今回も、会田誠もどきや舟越桂もどき、マルレーネ・デュマスもどき、田中功起もどきなどなど「もどき」がいっぱいありました。


自分が好きだからどうしても引っ張られるのでしょうが、第三者からはやはりエピゴーネン(亜流)としか見られません。誰かの表現をなぞることが、ほんとうに自分のやりたいことなのか? それが美大で4年間研鑽を積んできた成果なのか? と疑問を覚えざるをえません。アーティストとして何かを表現していこうというのなら、物真似のようなことからは早く決別してもらいたいものだと思いました。